癌手術で、生まれてはじめて入院している間のことでした。毎日毎日、便所に行くのにも、押して行かなければならない、点滴棒と一緒の暮らしは、やり切れないものでした。これが、生きているということなのかなと、自問しながらの毎日でした。 そんなある晩、終わった点滴を外しに来てくれたかわいい看護師さんの、 「ご苦労さまでした。お疲れさまでした」 の、心のこもったことばは、今も忘れられません。薬局でもらうものだけが薬だと思っていた私でしたが、心身ともに甦る薬を、私は、そのかわいい看護師さんから貰った思いがしました。 考えてみると、点滴が、私にとって、決して快適なものでないことが事実ではあっても、それは、私が私のためにやってもらっているものです。私の方から「ご厄介をおかけします」と、お礼を言わなければならないはずのものです。それを、若いかわいい看護師さんが、心からねぎらってくれるのですから、全く感激しました。心身を甦らせる高貴薬をもらった思いがしました。 馴れっこになってしまっている家族の間でも、心して、「ありがとう」「すみません」「ご苦労さま」「お疲れさま」を大切にしなければ・・・・・・と、その看護師さんから教えられた気がしました。